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『図書室のネヴァジスタ』紹介

【テンプレ】
「ユリイス名義」は、台鼎がオフラインで寄稿した文章の再掲や、常体でドヤ顔レビューしたいときに使う用のカテゴリです。
ドヤ顔で語ってますが情報にほぼソースや例がありません。脳内設定の恐れすら。
また、オタク全般に関する批評・レビューを専門にした本向けの原稿なので、エロゲレビューらしからぬ表現があったりします。

数年ほど前の原稿も含まれるので、色々変なことを言ってる可能性はありますがご了承ください。

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 コミックとらのあなで買い物をしたことがある人なら、広告などで見たことがあるかもしれないこの『図書室のネヴァジスタ』。二〇一〇年に発売された同人のノベルゲームで、同人ソフト――特に女性向け作品の界隈では結構有名な作品ではあるのだが、それでもやはり業界そのものがマイナーであるゆえに、ノベルゲームユーザー全体に対して知名度があるとは言い難い。そこでひとつ、簡単ではあるがこの作品の紹介をさせていただきたいと思う。

 物語の舞台はキリスト教系の全寮制男子校。五人の学生たちの暮らす「幽霊棟」に監禁された雑誌記者と、その幽霊棟に住むこととなった新任教師、二人の大人を主人公として、学生たちの巻き込まれている二つの事件の真相を知っていく……という、ジャンルとしてはサスペンス・ミステリーにあたる作品である。学生たちの友人であり記者の弟である少年が発端となる拉致監禁事件、学生たちの両親の世代までに遡り今なお学生たちを苛み続ける因縁、そして教師と記者と弟とを結ぶ一つの「後悔」……これらが複雑に絡み合い、こじれて、そして解けていく様を、五ルート二十八エンドを通して見つめていく大作だ。

 主人公たちが目にしていく事件の全容はともに、決して明るいものではない。むしろ人間の暗い感情に由来する様々な咎――殺人、誘拐、虐待、不倫、近親姦、薬物など――を煮詰めたような、一見するともはや救いようのない有様である。しかしながらこの作品は、それらの悲惨さと同じく、あるいはそれ以上に丹念に、彼らの人間模様を通して「子どもと大人」――親と子、兄と弟、教師と生徒の関係――という、人間同士の愛と信頼を疑わないテーマを一貫して描こうとしている。そうしてこの物語はサスペンスでありながら、収束に向かうのと合わせて、さながら感動的なヒューマンドラマの様相を見せていくのだ。

 それらの基礎となっているのは、緻密なキャラクターの造形である。ライターが自らの作風を「理詰め」と称している通り、プロファイリングするかのような合理的プロセスをもってキャラクターの経歴からその性格・行動・関係性を編み上げ、それらの因果関係から巧みにプロットを積み上げていることが、ガイドブックである「服毒本」における記述からうかがえる。それはたとえば、あるキャラクターは棄児であった過去から非常な洞察力を持っているが、献身が極端な上に自主性に欠け、一貫しない行動が事件に混迷を呼びときにそのことを利用され破滅の途をたどる……といった具合だ(余談ではあるが、「服毒本」において作者自身がキャラクターの詳細や関係を細密にデータベース化しており、ファンによる二次創作に対する配慮が感じられる)。

 しかし、それでもこの作品は決して理屈っぽくなっていない。それは、そのキャラクターたちの発する言葉の生々しさによるものなのであろう。非常に特徴的なことに、この作品のテキストというのは、一クリックに対して一文にも満たないような、短い言葉の連続で構成されている。その一つ一つは、小さな彼らの溜息を、湧きあがる葛藤を、漏れ出す嗚咽を、そしてどこまでもシンプルな感動と喜びを、言葉として、長々しい文章よりもずっと真に迫ってプレイヤーに伝えてくるのだ。そうして描き出されるキャラクターたちの像は、事件の関係者という設定に留まらない、一人の愛すべき人間としてその形を得ているのである。

 この作品で描かれる全ては、どこまでも人間の心の在り方に根差している。そしてそれだけに、この物語に最善解は存在しない。全ての者が幸福である未来は、二十八の結末の、どの後日談にもありえない。そしてそれらの結末に伴う悲劇の一つ一つは、キャラクターが生き生きとしているがゆえに、生き生きとしているほどに、プレイヤーにとって胸に迫る苦しいものに感じられるだろう。けれどそれと同じだけ、彼らを迎える一つ一つの希望が、喜びが、日常が、とても愛おしく感じられることに違いないはずだ。

(初出:2012年4月)
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ユリイス名義(レビュー、エッセー風味) | 【2012-05-03(Thu) 23:22:48】 | Comments(-) | [編集]

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